京都から愛媛までママチャリで行った話〜一日目〜

深夜のラーメン屋にて。


「いや、あのですね」

「うん」

「夏休みも終わるじゃないですか」

「うん」

「いやね、僕なんか旅したいんですよ」


大学生二人が、向かい合って座っている。

ズッーーズッーーーーッ


「うーんぼくはママチャリで旅がしたい!」

「はあ」

「なので、今から行ってくださった所にママチャリで行きますよ」


麺を啜る音。軽い思い付き。


「ほんと?じゃあ、うーんどうしようかな……あ、白神山地がいいな」

「(スマホで調べて)ちょっと700㎞はさすがに遠すぎますね…」


意思、薄弱。


「あ、じゃあ今治とかどう。今治行って今治タオル買ってきてよ」

今治ですか。おー距離も手頃だし、なんか物買うためにママチャリで現地まで行くのめっちゃおもしろいですね!よっしゃ行きます」


悪ノリ・勢いに身を任せて突き進むと、たまに待ち構えているのは一抹の後悔であったりする。これは教訓だ。


「あ、それにぼく丁度ママチャリパクられてるんで、お借りしてもよいですか?」

「いいよ」


自転車を借りる代わりに今治タオルを買う。なんだ、いい感じに釣り合っているじゃないか。なんだか楽しそうだし、ワクワクしてきた。


🚴🚴🚴


10/5(金)。空きコマに今出川周辺のスーパーに寄り、安売りのパン・飲料を買い集める。塩味も欲しいのでスナック菓子を買うなどする。は。準備万端じゃないか。楽しみ。


5限が終わり、一通り用事を済ませた私はいよいよ出発のときを迎える。時刻は19:35。今出川通りを走り抜け、出町柳へと向かう。鴨川に沿って七条あたりまで一気に南下する作戦だ。


f:id:kirimanjyaro7:20181018215846j:plain


出町柳にて一旦菓子パンを貪り、鴨川に降りる。普段はあまり気づかなかったのだが、道が全然舗装されていないので結構走りにくい…。だが、四条あたりで舗装路に変わり、一安心。


f:id:kirimanjyaro7:20181019001107j:plain


それにしても夜の鴨川はエモい。普段は風景写真を撮らない僕でも思わず空に向けてシャッターを切ってしまった。


f:id:kirimanjyaro7:20181019001228j:plain


ブレまくっている。マジで申し訳ない。エモさ微塵もわかんねえ…。


なんやかんやで、漕ぐ。夜の鴨川サイクリング、なかなかオツである。しばらくすると京都タワーが見えた。テンション上がるなァ!キレイ!うわ電車通った!うわー京都駅かーいいなーーーーーーーーー




……………………





f:id:kirimanjyaro7:20181019001316j:plain


そういうとこやぞお前。仕方ない、ママチャリ担いで隣にあった階段を駆け上がる。重…。と、後ろに観光客とおぼしき方も続く。なんかせっかくサイクリングされてだあろうに、謎の申し訳が湧き上がる。お互い頑張りましょう…。



七条からしばらく進む。と、これまたなんかエモい明かりが見えた。


f:id:kirimanjyaro7:20181019001355j:plain

エモい明かり(ヘボ画質)。なんか赤いやつ。鳥居かなんかかな?画質悪すぎて思い出せない…。


とまあ夜なので川沿いじゃなくても漕ぎやすい。そしてあっちゅう間に竹田に着くのである。


f:id:kirimanjyaro7:20181019001559j:plain


少し分かりにくいが、左が鴨川、右が道路(多分一号線)である。ま、道路とか信号あるし、ワイは華麗に左曲がって鴨川沿いを……



ガタァ!ガタガタガタァ!!!!!(砂を轢き散らす音)




道がめちゃくちゃ悪い。こんな無理やろ…。さっきまでのドヤ顔は消え、おとなしくチャリを押して歩道に出る。この歩道、自転車専用レーンがあり鬼のように走りやすい。おい鴨川しっかりせんかい!私は「河川敷サイクリングこそ最速」主義者だったので、なんだか微妙に悔しくなりながら路上を走る。


f:id:kirimanjyaro7:20181019003541j:plain

(一号線。なんでどれもブレてんだ…)


途中からまた鴨川に入る分岐が出てきたので、迷わず進入。私はやはり河川敷が好きなのだ。今度は普通に走れる。なんやかんやで、信号がない川沿いは走りやすいのである。


f:id:kirimanjyaro7:20181019001650j:plain

鴨川からの写真。もはやブレていることには触れまい。



しかしみなさん、鴨川は一筋縄で行く川ではないのであった…。


スイスイと鴨川を走る。人もいないし、何より気持ちがいい!このまま宇治あたりまで一気に着けてしま


f:id:kirimanjyaro7:20181019001732j:plain



道が無くなった。


え?????画像では分かりにくいかもしれないが、階段を降りた先、そこは川である。ただ川が広がっていている。道は無い。目の前は、水。いや流石に鴨川気まぐれすぎんだろ…。


f:id:kirimanjyaro7:20181019001813j:plain


後ろを振り向くと、もう一つ道が見えた。そう、暗闇の中でぼぅっと光るあいつである。唐突の不意打ち分岐やめろ。


さっと引き返し、なんとか正規ルートに合流。にしてもさっきの階段だが、あれ意味あんのかな…降りてただ川広がってるだけだし……あ、泳げってことなのかな?


まあどうでもいい。再びシャカシャカと、漕ぐ。



そしてなんやかんやで鴨川を抜けた。ラーメン屋の看板が見える。


f:id:kirimanjyaro7:20181019001908j:plain


ちなみにこのラーメン屋、看板には

「交通安全   

スピード違反罰金12000円 ラーメン650円」

と書いてある。なかなかのセンスだが、12000円の真ん中の「0」が取れて、スピード違反罰金「1200円」となっていてラーメンとそこまで値段の差が無くなってしまっているのもポイントが高い。いつか行ってみたいラーメン屋である。


おいこらしょと、普通の路上を走り、ひとまずマクドナルド前にチャリを停めて休憩。今出川のコンビニで買った塩辛いポテトスティックをボリボリ食う。あぁ…。塩分が沁みる……。と、大体ここまでの所要時間は1時間ほどであったので、何キロ進んだかグーグルマップにて確認する。へへ、めっちゃ漕いじまったよオイラ。ほとんどが川沿いであったし、歩行者もおらず順調に来れたし、まあ15㎞は進んで………



10㎞!?エェーーーッッ!



嘘だ……なんで、あんなひねくれまくった鴨川に悪戦苦闘してこんなヘトヘトなって漕ぎまくったのに、たかだか10㎞…距離数を確認したのを少し後悔した。これ本当に着くのかよ…。愛媛まで何キロだっけ……


f:id:kirimanjyaro7:20181019002044j:plain


346㎞。

真面目な話、私はここで引き返して適当に牛丼でも食って家に帰ろうか本気で迷った。しかし今治タオルを買う約束をしてしまったし、Twitter上でも「今治行きます!w」と自信満々に公言してしまったのである。いくらなんでも「チャリで愛媛行く!」と言っておいて「宇治でギブ…」はダサすぎる。ありえない。普段はプライドもへったくれも無い私だが、さすがにここで引き返してはなんだか自らの存在問題に直面するような気がしたし、もはや後には引けない…。私は再びペダルに足を乗せたのであった。


とまあ、漕ぐ。せめて大阪まで行こうや…と思いながら漕ぐ。


f:id:kirimanjyaro7:20181019002215j:plain

なぜ撮ったのかさっぱり分からない交差点の写真。たぶんエモさを感じたのだろう。そしてブレている。


一号線を漕ぎ、途中で右折、やや細めの府道に入る。お、淀じゃん。競馬場のあたりまで来た。てことは八幡もすぐか……はよ淀川に合流したい…。


f:id:kirimanjyaro7:20181019002341j:plain


なかなか順調に、スピードも出しながら漕いでいたら割とあっという間に八幡に着いた。この坂を上って橋を渡ると、淀川が見える。


と、すぐに淀川に合流する訳ではなく、しばらくはまた府道を走る。だが府道も川沿いであるし、信号もほとんどないのでカッ飛ばす。うへぇ〜気持ちいい〜〜。

府道もすぐに終わり、楠葉あたりでいよいよ淀川河川敷に降り立つ。そう、もう私は大阪府に入ったのだ!私はこの時点で中々に調子に乗っていた訳で、大阪駅なんて一瞬で着くやんけぇ!と意気込んでいたのだが……



f:id:kirimanjyaro7:20181019002424j:plain



夜の淀川、マジで恐い。人おらん、、、光もあらへん、、、、何どこやここ、、、、、

本当に、夜の淀川は孤独感がものすごい。俗世から離れて、誰にも気付かれず独り修行でもしている気分である。ニンゲン、他者との交流が必要なんやな…としみじみ思う。


f:id:kirimanjyaro7:20181019002504j:plain

(たまに灯りが見える。これは綺麗に撮れてるでしょ。)


さて、人のいない淀川河川敷など言うなれば「ママチャリ専用高速道路」みたいなものであって、えげつない勢いでスイスイ進む。漕いで漕いで漕ぎまくる。トップギアってこういうことなんかな…とか思いつつ漕ぐ。漕いで漕いで漕ぎまくる。ただ、序盤は中々に爽快な気分なのだが、途中から「誰か、俺を止めてくれ……」という気分になってきた。自分で適宜休憩を取ればよいのだが、やはり時間も無いことだし漕げる時に漕いでおきたい心理が働いてしまうので無限に漕ぎまくってしまうのである。こんなスイスイ進むのに止まるだなんて勿体無い!というやや不気味な行動原理で、私はひたすらに漕いだ。


🚵🚵🚵🚵🚵



f:id:kirimanjyaro7:20181019002706p:plain


灯りが見えた!もうこれは市街地が近いのでは……若干元気を取り戻す。いかんせん、ひたすら漕いでいたものだからかなり疲労が溜まっていたし、いやそもそも五限まで授業を三コマ受けてからの出発でもあったのである。ほとんど人にも会わずに暗闇でずっと漕ぐのも中々に辛い。あぁ…はよ大阪駅でおれはあったけぇラーメンでも食うんや…。


f:id:kirimanjyaro7:20181019002746j:plain

街灯り、マジで綺麗。



そして、いよいよその時が来た。


f:id:kirimanjyaro7:20181019002840j:plain


大阪駅着。なんやかんやで4時間もかかった。ヘトヘトだ……時刻は23:30頃であった。にしてもいい時間なのに流石と言っていいのか、人は結構多い。人混みを掻き分け、ラーメン屋を探す。おれは……温かいスープと…………コテコテの脂を欲しているッッッッ………!!!!!


f:id:kirimanjyaro7:20181019002930j:plain

寒空の下ラーメン屋を探す。


だが、この時間に空いている場所も中々見つからない。運良くグーグルマップで見つけるも、梅田辺りではあまりGPSが使い物にならないので、道に迷いまくる。ヘトヘトの身体と、とてつもなく減った腹を携えておれは据わった目で深夜の梅田を徘徊していた。



そして見つけた。



脂。

肉。

麺。


そして、











ぬくもり。

f:id:kirimanjyaro7:20181019003014j:plain





最高の気分だった。


f:id:kirimanjyaro7:20181019002637p:plain


このときのおれは、マジでこういう気分だった。ただのラーメン屋が、史上最強の「しあわせ空間」と化していた。ピリ辛もやしナムル、土星爆発的な超弩級のウマさだった。おれは思わず月に向かって吼えた。

(※吼えていません)


さて、腹も満たされたことだし、おれは兵庫あたりまでいくつもりであった。チャリに跨る。よし、西宮まで行………うーん………


 









寝よう。





無理だ。無理。端的に言って漕げん。いや、早く寝てもその分早く起きれば変わらないじゃないか。野宿しようかと思ったが、まだ300㎞あることを考えるときっちり睡眠を取って体力を温存すべきだと考えた。金が勿体無いが、ネットカフェを探す。


🚵‍♀️🚵‍♀️🚵‍♀️🚵‍♀️🚵‍♀️🚵‍♀️🚵‍♀️🚵‍♀️


梅田の、怒涛の客引きをかわしつつ、やっとのことでネットカフェに辿り着いた。フラットシートで横になる。明日は6時に起きて、また自転車を漕ぐ…。無料ドリンクバーで入れたいちご・オレを飲み干して、横になる。

そうしておれは段々と眠りに落ちてく。口の中にはまだ、甘ったるいジュースの風味が残っていた。(二日目に続く)


f:id:kirimanjyaro7:20181019002555j:plain


(街路樹に電飾を掛ける作業現場に偶然出くわした。こういうのも、全部人がやってるんだなあと、謎の感慨に浸る。寒い中ご苦労様です。)